Intel の 10nm化が進まないせいなのか、
長らく停滞していたAMD が突然躍進しだしたせいなのか、
CPUのモデルナンバーとスペックは、最近ますますややこしいですね。
動作周波数, コア数, 或いはモデルナンバーだけでは理解できません。
今回はそんなお話。
最近あった Core i5 のワナ
年度末ということもあり、測定用に比較的安価な小型PCを BTOで買うことに。
(20cm角弱で高さが3cmとかしかないヤツ)
小型&軽量なので、フラっと持っていって、
置いても場所を取らないのが便利ですね。
ところが見積もりを取って、いざ発注がかかるという段になって、
業者から新型コロナの影響で納入日が不透明なので、
モデルを似たものに変更させてほしいとの連絡が。
細かな違いはいくつかあったものの、一番気になったのがCPU。
当初は i5-8265U を選んでいたのが i5-8400T になっていた。
PCのスペックとして通常記載される情報を表にしてみると、
i5-8265U | i5-8400T | |
---|---|---|
世代 | 第8世代 | 第8世代 |
core/thread | 4C8T | 6C6T |
ベースクロック | 1.6 GHz | 1.7 GHz |
iGPU | UHD 620 | UHD 630 |
Intel の同じ世代の Core i5 だし、
モデルナンバーも大きい数字になっているし、
実コアも4から6に増えているし、
ベースクロックも僅かながら速くなっているし、
iGPUもマシなの付けてるし、良くなってるのでは?
と、そう思いますよね?
私はすぐに「ん??」と思ったのだけれど、
ピンと来ない人のためにもう少し詳しいスペックを続けます。
i5-8265U | i5-8400T | |
---|---|---|
用途 | Mobile | Desktop |
アーキテクチャ | Whisky Lake | Coffee Lake |
TDP | 15W (cTDP:10-25 W) |
35 W |
最大ターボ | 3.9 GHz | 3.3 GHz |
価格(USD) wikipediaより |
$297 | $182 |
なんとなくポイントが見えてきましたでしょうか?
ツッコミどころはいくつかあって、
- TDP 15→35 W ながら、同じ小さな筐体で大丈夫?
- 最大ターボ周波数(〜1コア性能)が 20%近く下がっている
- (ついでに) CPUの単価、随分下がってませんか?
(製品価格は据置 or ちょいプラスなのに)
私が最初に異変に気づいたポイントは、
末尾が U から T に変わっていることでした。
前者は主に(省電力)ノート向け、後者は省電力デスクトップ向けです。
小型PCなどでは排熱など熱設計の関係で、しばしばノート向けが使われます。
そういう場合は敢えてノート用を使っているので、
デスクトップ用に変わっているとなるとやはり気になります。
また、desktop 用と mobile用はかなり設計が異なるので、
表面上の数字もかなり意味合いが変わってくることが多いです。
こういう小型PCの i5 を選んでる時点で、
マルチスレッドの超ヘヴィーな長時間作業はあまり念頭になく、
普段の使い勝手はやはりシングルスレッド性能のほうが直接的に効いてきます。
L3キャッシュの大きさが違うとか言っても、
ターボ周波数が20%も違うとさすがにカバーできません。
ついでいうとフルロード時の全コアターボも
8265U が 3.7 GHz の HT, 8400T が 3.0 GHz なので、
4コア(8T) と6コアの差は大きくは出ず、
同程度か僅差で辛うじて8400Tが上回るかという程度です。
ここ10年で Intel のIPCが +50% とどこかで見た気がします。
つまり先方の提案通りにして、20%もシングルコア性能が低くなると、
「このPC、新しい割になんだかモタつかない?」
ということになりかねません。
新型コロナの影響下で、納期が間に合うという制限により、
非常に限られた代替候補から、結局 i7-8700T をチョイス。
こいつはターボ周波数が 4.0(〜3.8) GHz なので、
シングルでも 8265U に劣ることはありません。
代わりにややオーバースペックな 6C/12T を買うことになりましたが。
# 元は先方の事情なので、その分頑張って勉強してもらいました。
届いて使ってみて初めて気づいてビックリ。
この製品のメモリ、8GB のシングルチャネルだったのね。。。
8GB はもちろん意識してたけれど、さすがにデュアルだとばかり思っていました。
4GB x2 と 8GB x1 では後者のほうがコスト的にお得なのだろうか?
エントリー、ローエンドでも。。。
ノートPC, 小型PCなどは継続的にちょこちょこ買い替えていましたが、
デスクトップ用途のメインは暫く間が空いていて、所謂 "Sandyおじさん" 状態でした。
i7 2600K, 3930K から一足飛びに 2018年に Xeon W-2155 になりました。
サブ用途の超コスパなローエンドも Ivy の Celeron G1610 から空いています。
この遊びマシンをそろそろ置き換えようかなと考えています。
Ivy の時は Celeron と Pentium(の下位) は L3キャッシュくらいしか差がなかったので、
低消費電力で冷え冷えと評判だった Celeron G1610 にしましたが、
この価格帯は Kaby Lake 以降少し事情が異なるようです。
繰り返しになりますが、Ivy の時は Celeron/Pentium が 2C/2Tで、
上に Core i3 がHT付きで 2C/4Tでありました。
動作周波数も Celeron と Pentium が近くて、i3 は少し上にいる感じでした。
TDPはいずれも 55 W でした。
ところが Kaby Lake から、Pentium に HTが付いて 2C/4Tに、i3 が 4C/4T になりました。
動作周波数は、例えばコスパの良い Coffee Lake の 無印(T無し)下位グレードで、
Celeron, Pentium はそれぞれ 3.1, 3.7 GHz に対して、i3 は 8100 が 3.6 GHz です。
TDP は Celeron/Pentium が 54 W, i3 が 65 W です。
つまり、Ivy 時は Celeron/Pentium が近くて、i3 が少し離れて上にいたのに対して、
Kaby 以降は、単独Celeron が下、少し空いて Pentium, i3 が肉薄しているイメージです。
もちろんL3キャッシュや内蔵GPUは違うのですが、
このようなグレードのローエンドの用途を考えると、
上記の違いや、2C/4T と 4C/4T の違いがどれほど効いて、
その対価として TDP: 54 → 65W となり、価格が倍になる程の恩恵があるということです。
i3-8100(3.6 GHz)は、本当に G5400(3.7 GHz) より上のグレードなのでしょうか?
(第9世代で i3-9100 は最大 4.2 GHz までターボするようになり、若干突き放しましたが)
# Xeon Scalableシリーズの、Xeon Gold 1ソケット用とかいうのも相当にわかりにくい。
# 同じく1ソケット用の Xeon Wシリーズとの棲み分けはどうなっているか?
さて冒頭の話に戻ると、サブ用途の超コスパなローエンドの置き換え、
今はあんまり時期が良くないんですかね。
候補の Pentium Gold G5400 は 2018Q2 のリリースで、
2020Q1(4月?) に CometLake-S が出るとも噂されていましたが、
昨今のこの世相を受けて先行きは全く不透明です。
AMD は Athlon 200GE は少し性能が足りず、3000G はOC前提なのと、
そもそも AMDはチップセット or マザーが電気食いのようなので、
今回のような殆ど遊んでいるような低電力マシンには向いてない気がしています。
CommetLake-S の発表が来ましたね。
i3 は第八世代から Turbo, HT を順に搭載したので、
第八世代で肉薄していた Pentium を随分突き放した感があります。
しかしコンシューマー向けに 125W は無いわ。
つまり何が言いたいの?
こんなややこしいことになったのも、
そもそもはライバル不在による半独占下での
Intel の殿様商売に起因した、Skylake からの長〜い停滞が招いたことです。
この停滞はまだ続いていますが、AMD の Zen に始まる反撃に対して、
Intel が手をこまねいている様子が散見されます。
やはり何事にも競争が必要なのです。
要は、
「いいぞ、AMD! もっとやれ!」
多コアCPUを使い尽くす、私の用途の一つが python での numpy などの並列演算です。
これらは OpenBLAS を使って並列化することもできますが、
Intel CPU に限っては Intel MKL を用いると更に2倍程度速いようです。
そういう事情もあって、昨今の AMD の躍進を受けて、
Thread Ripper 等に変えても、この用途では大きなゲインがまだ期待できません。
さらに手元の開発機のAMD化だけならいざ知らず、
実運用サーバーとなると、Xeon系は溢れていますが EPYC系はまだ限定的なようです。
そういった事情で、私も Ryzen/Thread Ripper へはまだ手が出せていないのですが、
かと言って、Intel信者と言う訳ではないのです。
Athlon 64 3700+ (socket939) を 2.8 GHz に OC して愛用していた時代があったりと、
AMD が良かった時代を知っているし、元気が無かったことを憂いていた一人でもあります。
AMD にはこのままの勢いで頑張ってもらい、Intel にも早く盛り返してもらいたいものです。